「今年はもう帰ってこんでええって。何かあったらあかんから」

 日本中のそこかしこで、電話やSNSのこんなやり取りがあったのでしょう。

 でも、そんな電話をされた方も、本当は、会って話したかったのかもしれません。

初盆に最後のお別れを言いたかった人もいることでしょう。

久しぶりに見る家族の顔。今年亡くなった故人の思い出。

離れて過ごしていた間の暮らしの諸々のこと。

会って、話して、一緒に時間をすごす……そんな当たり前のお盆が来なかった今年の夏。

 かえれなかった切なさを持つ方々に、これらの写真・映像を捧げます。

火とぼし(せんたい) [育生町尾川地区]
初精霊(今年亡くなった方の魂)を自宅からお墓まで送る火。
帰省できなかった方のために、写真やビデオ通話でこの景色を届ける人たち。
川を挟んだ両岸の地区それぞれの火が、川沿いの墓地へと故人を導き、火とぼしの火が尽きた時、そこには満天の星が名残のように煌めいていました。
精霊流し木本町
夕焼けが星空へ変わる頃、精霊筏が次々と旅立っていきます。
「帰っておいで。海を渡り、星のきざはしを登って。
 いのちはみな、そこから来て、そこへ還る」
そう言って、海や空が迎えいれてくれているような、静謐な夏の夜でした。

灯篭焼き[有馬町]

 夏の陽ざしの名残で、ほのあたたかい玉砂利に、お盆の間、故人の魂を宿してくれた紙の灯篭や盆提灯が並びます。 星たちが待つ浜、海を背に立つ故人の写真に最後の最後のお別れを言ったら。 銀の炎の滝に押し流されて、形あるものは光へと還っていきました。

追善花火[七里御浜]

私たちは地上に生き、彼らは天上に逝く。
せめて、精一杯、空に手を伸ばして、彼らに花をささげましょう。
できるだけ高く、できるだけ大きく。
天と地に分かたれた者たちを、大輪の炎の花が結んでいました。